東京都渋谷区の実成約を国土交通省のデータで並べると、最初に目に入るのは件数の偏りです。売られている家の大半が中古マンションで、戸建ては一部、土地はさらに少ない数でした。
このページは、その偏りの中で渋谷区のデータに出ている事実を、マンションから順に書きます。売る手順や必要書類のように、どこで売っても同じ話は、それぞれの解説記事に送ります。
渋谷区では、戸建てが1件売れる間にマンションが7件以上売れている
国土交通省の不動産情報ライブラリで、渋谷区の成約を種類ごとに数えました。中古マンションは3,798件あり、戸建ては521件でした。土地は186件で、三つの中でいちばん少ない数です。
マンションの中央値は7,050万円で、面積あたりに直すと148万円/平方メートルです。戸建てのほうの中央値は22,000万円でした。
件数がこれだけ違うと、査定の材料の集まり方も変わります。マンションは、同じ築年帯で同じ間取りの成約を何件も並べられます。だから渋谷区のマンションの査定は、成約を「選ぶ」作業になります。
どの成約を根拠にしたかで、査定額は上にも下にも動きます。戸建ては、条件の合う成約そのものが少ない市場です。一件の成約の重みが大きく、自分の家の条件をどう示すかが先に来ます。
マンションの査定で聞かれるのは、部屋の中だけではありません。管理費と修繕積立金の額、修繕の記録、同じ棟で今売りに出ている部屋の有無です。
書類のそろえ方は中古マンションを売るに書いてあります。このページでは、渋谷区のデータに出ている特徴に絞ります。
2LDKが最多で1LDKが次。壁を抜いて間取りを変えた部屋は、比べる相手を先に決める
渋谷区の中古マンションで、成約がいちばん多い間取りは2LDKです。二番目が1LDKでした。部屋数が一つ違うだけの二つの間取りが、件数の上位に並んでいます。
この二つは、広さの帯が重なりやすい組み合わせです。同じ専有面積でも、壁で仕切って2LDKにした部屋と、壁を抜いて1LDKにした部屋があります。
中古マンションでは、買った後に間取りを変えて住む人がいます。売るときに問題になるのは、その部屋を「どちらの成約」と比べるかです。
登記や分譲時の図面では2LDKでも、今の形が1LDKなら、買い手は1LDKとして見ます。逆に、広告を2LDKと書いて出せば、2LDKを探している人が内見に来て、部屋数が足りないと感じて帰ります。間取りを変えている部屋は、査定を頼むときに今の形を先に伝えてください。
そして、どちらの間取りの成約を根拠にしたかを確かめてください。二つの間取りの成約を混ぜた平均は、どちらの部屋の実態とも合いません。
築31年を越える段でいちばん落ち、築46年以上は半分を切る。先に1981年6月の線を確かめる
渋谷区の中古マンションを築年帯で並べます。中央値がいちばん大きく下がるのは、築21〜30年から築31〜45年へ移るところです。そこから先も下がり、築46年以上では築10年以内の半分を切ります。
築46年以上という帯には、もう一つ意味があります。建築基準法の耐震基準は1981年6月1日に大きく変わりました。この日より前に建築確認を受けた建物は「旧耐震」と呼ばれ、買い手の見方が分かれます。
買い手が使う制度の中には、耐震基準に関する要件が付くものがあります。耐震診断や耐震改修の記録があれば、その結果で扱いが変わることがあります。自分の棟がどちらに当たるかは、建築確認の日付で決まります。
竣工の年ではありません。管理組合か管理会社に聞けば分かります。
築20年代の後半にいる部屋は、この段差の手前にいます。今は築21〜30年の成約と並べて査定されても、数年で次の帯に移ります。
売る時期を迷っているなら、今の査定書がどの帯の成約を根拠にしているかを聞いてください。上がり続ける保証はないので、帯が変わる前後で何が変わるかを知ったうえで決めるのが現実的です。
直近1年、マンションも戸建てもはっきり上がった。住み替えなら買う家も同じ向きで動いている
渋谷区では、直近1年の中央値が、前の1年に比べてマンションも戸建てもはっきり上がりました。向きが同じで、幅も小さくありません。
上がった年に売る人が気をつけるのは、査定の根拠の日付です。1年以上前の成約を根拠にした査定額は、今の市場より低く出ます。逆に、直近の高い成約だけを選んだ査定額は、売れる値段より高く出ることがあります。
査定書を受け取ったら、根拠にした成約がいつのものかを聞いてください。直近1年の成約と、それより前の成約が混ざっているなら、分けて見せてもらいます。
住み替えで売る人には、もう一つ見ておく点があります。売る家が上がった年は、買う家も上がっています。売った金額で次の家を買う計画なら、売る側の上昇だけを見て予算を組むと合いません。
売りと買いのどちらを先にするかは、住み替えは売り先行か買い先行かで整理しています。上がっている年は、売り先行で手元の金額を確定させる考え方が成り立ちます。
買い先行で次の家の値段を先に押さえる考え方も成り立ちます。自分の資金でどちらが取れるかを先に確かめてください。
改装済みの中央値は未改装より高い。ただしデータの「改装」は、中身を区別していない
渋谷区の中古マンションで、改装済みとして成約した部屋の中央値は、未改装より高く出ています。この差を見て「売る前に直せば高く売れる」と読むのは早いです。
国土交通省のデータの「改装」は、改装済みか未改装かの二択です。壁紙を張り替えただけの部屋も、給排水管まで交換した部屋も、同じ「改装済み」に入ります。
改装済みの中央値が高いのは、その中に大がかりな改装や、業者が買い取って直した部屋が混ざっているからとも考えられます。自分が壁紙と床を直した部屋が、同じ値段になるとは限りません。
渋谷区で多い2LDKと1LDKは、専有面積のわりに水回りの比率が高い間取りです。改装の費用は水回りで決まりやすく、直す範囲を広げると費用は伸びます。直すかどうかは、現況のままの査定と、改装した場合の査定の二つを取り、差額と見積もりを並べてから決めてください。
差額が見積もりを下回るなら、直さずに売るほうが手元に残ります。判断の材料は売る前にリフォームすべきかに書きました。
戸建てが落ちるのは築46年以上へ移る段。建物の評価が消えたあとに、もう一段引かれる
渋谷区の戸建ては521件で、中央値は22,000万円です。築年帯で並べると、中央値がいちばん大きく下がるのは、築31〜45年から築46年以上へ移るところでした。
築46年以上の中央値は、築10年以内から3割ほど下がった位置にあります。マンションの段差が築31年の手前に来るのに対して、戸建ては段差が一つ後ろにあります。
建築士の視点
木造住宅の法定耐用年数は、省令で22年と決まっています。築31〜45年の家は、査定上の建物の評価がほとんど残っていません。それでも築31〜45年までの下げが小さいのは、値段の大半が土地で決まっているからです。
では、建物の評価が消えたあとの築46年以上で、なぜもう一段下がるのか。買い手が「壊す前提」で値段を付けるようになるから、と考えると説明がつきます。建物を残して住む買い手なら、土地の値段に古い建物の分を少し足します。壊す買い手は、土地の値段から解体費を引きます。この差が、築46年以上の段差として出ているのだと見ています。
築46年以上の戸建てを売るなら、買い手が二種類いることを前提に進めてください。建物を残して住む人に向けて売るなら、雨漏りや傾きがないことを示す材料が効きます。壊す人に向けて売るなら、建物より敷地の条件が値段を決めます。どちらの買い手を想定した査定額なのかを、先に聞いてください。
戸建ての値段が渋谷区で決まる条件は、次の二つの節に書きます。用途地域と、前面道路の幅です。どちらも後から変えられない条件で、築年より値段に効いています。
区全体の戸建ての中央値は、商業地域の成約に引き上げられている。第1種住居地域の家はそのまま当てはめない
渋谷区の戸建てを用途地域で分けると、成約がいちばん多いのは第1種住居地域です。中央値がいちばん低いのも、同じ第1種住居地域でした。中央値がいちばん高いのは商業地域です。
この並びが意味するのは、区全体の中央値22,000万円が、自分の家の目安にならない人が多いということです。いちばん件数の多い地域の中央値が、区全体の中央値より下にあります。
区全体の数字は、商業地域の高い成約に引き上げられています。真ん中の半分の幅が11,000万円から63,000万円まで開いているのも、同じ理由です。
商業地域の戸建てが高いのは、建物が立派だからではありません。都市計画法の用途地域は、その土地に建てられる建物の用途と大きさの上限を決めます。商業地域は容積率の上限が高く、同じ敷地でも大きな建物を建てられます。
買い手は「今ある家」ではなく「この敷地に建てられるもの」に値段を付けます。第1種住居地域は住宅が中心の地域で、建てられる上限は商業地域より低くなります。
自分の家の用途地域は、区の都市計画の窓口か、区が公開している都市計画図で確かめられます。査定を頼むときは、用途地域を先に伝え、同じ用途地域の成約を根拠にしてもらってください。商業地域の成約が混ざった査定額は、第1種住居地域の家には当てはまりません。
前面道路が6m以上の戸建ては、住む人だけでなく建てる業者も買い手になる
渋谷区の戸建ては、前面道路の幅が4m未満か、4〜6mか、6m以上かで中央値に差が出ています。幅が広いほど中央値が高い並びです。
4m未満の道路に面した家には、建築基準法の制限が付きます。建て替えのときに、道路の中心線から2m下がった位置まで敷地を後退させる必要が出る場合があります。後退した部分には建物を建てられません。
買い手は、建て替え後の家が今より小さくなると見込んで値段を付けます。過去に後退を済ませているかどうかで、この見込みは変わります。売る前に確かめておく点です。
6m以上の道路に面した家は、買い手の種類が増えます。住む目的の人に加えて、敷地にマンションや共同住宅を建てる業者が候補に入ります。渋谷区はマンションの成約が圧倒的に多い区で、建てる側の敷地の需要も続いています。
前面道路の幅は、建てられる容積率の上限にも関わります。幅の広い道路に面した敷地ほど、建てる側にとって使いやすい土地になります。
住む人と建てる人の両方が買い手になる家は、値段の付き方が一段変わります。これが、道路の幅で中央値が分かれる理由の一つだと見ています。
前面道路の幅は、自分の目で測った数字で話を進めないでください。区役所で道路の台帳を確かめると、法律上の幅と、建築基準法上の道路かどうかが分かります。査定のときは、この数字を伝えてください。
土地の成約は186件でいちばん少ない。単価180万円を自分の敷地に掛け算しない
渋谷区で土地だけの成約は186件で、三つの種類の中でいちばん少ない数です。面積あたりに直すと、中央値は180万円/平方メートルです。
この単価に自分の敷地の面積を掛けて、土地の値段を出したくなります。渋谷区では、その計算が合いにくい理由が二つあります。一つは件数の少なさです。
成約が少ないと、一件の条件の偏りがそのまま中央値に出ます。もう一つは、前の二つの節で書いた用途地域と道路の幅です。
土地の値段は、この二つの条件で大きく分かれます。条件を見ずに単価だけを使うと、高くも低くも外れます。
渋谷区で敷地の値段を知りたいなら、土地の成約より、同じ用途地域で道路の幅が近い古い戸建ての成約のほうが材料になります。古い戸建ては、買い手が壊す前提で値段を付けることが多く、実質は土地の取引に近いからです。
土地として売るときに先に済ませておくのは、隣地との境界の確認です。進め方は土地を売るに書きました。
査定の前に、自分の物件を渋谷区のデータの三つの欄に当てはめる
このページに書いた渋谷区の事実は、査定額を見る前に自分の物件を置く場所を決めるためのものです。次の三つの欄を、先に埋めてください。
一つ目は種別です。マンションなら、比べる成約は3,798件の中から選べます。
戸建てなら521件の中で、条件の合うものを探します。選ぶ作業なのか、探す作業なのかで、査定の進め方が変わります。
二つ目は築年帯です。マンションは築21〜30年と築31〜45年の間に段差があります。
戸建ては築31〜45年と築46年以上の間にあります。自分の物件が段差の手前にいるのか、越えたところにいるのかで、根拠にしてよい成約の帯が決まります。
三つ目は条件です。マンションなら間取りと、今の形が分譲時と同じかどうか。
戸建てなら用途地域と前面道路の幅です。この欄が埋まっていれば、査定書の根拠が自分の条件と合っているかを、その場で確かめられます。
かかるお金も先に見ておきます。仲介手数料は上限が法律で決まっていて、売れた金額で変わります。それ以外に、登記の費用や、売った利益にかかる税金が出ることがあります。
項目ごとの内訳は不動産売却でかかる費用の一覧にまとめました。渋谷区で売るときも、かかる費用の種類は変わりません。変わるのは、根拠にする成約がどれかです。