東京都新宿区で空き家を持っているなら、最初に外しておきたい前提があります。「解体には区の補助が出るはずだ」という思い込みです。
新宿区の公式サイトで確認できた木造住宅向けの助成は、直すための制度でした。壊す費用が助成の対象に入るのは、場所の条件が合ったときだけです。
この記事は新宿区の制度と、新宿区の実成約データに絞って書きます。制度の内容は2026年8月時点のものです。
新宿区の助成は「直す」に向いている。「壊す」ではない
区が用意しているのは、木造:耐震改修工事への助成です。名前のとおり、改修のための制度になっています。
対象は木造2階建て以下の住宅です。昭和56年5月31日以前に建てられたものが当たります。昭和56年6月1日から平成12年5月31日までに着工したものも対象です。
金額は工事の種類で分かれます。耐震改修は対象工事費の4分の3で、上限300万円。簡易改修は5分の3で、上限150万円です。
条件がひとつ付きます。道路に突き出している建物や、無接道の敷地では、この率が下がります。
新宿区には狭い道が残っています。実成約データでも、前面道路の幅で戸建ての中央値に差が出ています。集計に出ている区分は4m未満、4〜6m、6m以上の3つです。
そして肝心なところ。この助成のページ本文に、除却費用への言及はありません。
つまり「空き家を壊すので補助をください」という入口は、この制度にはないと読むのが自然です。改修する前提で建物を残すなら、話は変わります。
窓口は防災都市づくり課(03-5273-3829)です。空家等対策の全般は、総務部 危機管理課 危機管理係(03-5273-4592)が受け持っています。
電話をかける前に、建てた年、構造、階数、住所を手元に置いてください。最初に聞かれるのがそこです。
同じ市のなかでも、駅からの距離と土地の形で価格は変わります。まず自分の地域の実際の成約価格を見ます。
木密地域なら除却も対象。ただし契約を先にすると消える
除却が助成の対象に入る制度も、ひとつあります。木造住宅密集地域における不燃化建替え促進事業です。
平成28年6月1日から、木密地域内にある木造住宅の不燃化建替えおよび除却に助成が出ています。壊すところで終わらず、建て替えまで見ている制度です。
ただし、この記事では金額を書きません。助成率も上限額も対象地区も、区のページ本文には載っていないからです。数字はPDFの中だけにあります。
ここで見当をつけて書くと、読んだ人が損をします。だから書きません。
自分の家が対象地区に入るかどうかは、地図を眺めても分かりません。住所を伝えて、防災都市づくり課(03-5273-3829)に聞くのが早い。
令和8年度の受付状況と予算枠も、公式ページでは確認できませんでした。枠が残っているかどうかも、あわせて聞いてください。
木密地域にある家なら、判断の幅が少し広がります。壊して売るだけでなく、建て替えて貸す、あるいは自分たちが住むという手もあります。
そして、順番の落とし穴があります。交付決定より前に契約や着工をすると、対象外として扱われる制度が少なくありません。
新宿区の各制度について、申請と契約の前後関係は公式ページの本文では確認できませんでした。だからこそ、契約の前に電話を入れてください。ここを飛ばすと取り返しがつきません。
見積もりを取る行為そのものは、ふつう制限されません。危ないのは、業者と話を詰めるうちに、その場で契約書に署名してしまう場面です。
見積もりは複数社から取ってください。解体の費用は建物の構造で変わります。現場まで重機が入る道があるかどうかでも、金額と工期は動きます。
新宿区は細い道が多く、ここが大事な場所です。前面道路の幅で戸建ての中央値に差が出ているのは、売るときだけの話ではありません。
費用の決まり方と業者の見方は空き家・古家の解体費用は何で決まる? にまとめました。
空き家バンクは無い。かわりに月2回、専門家がそろう日がある
新宿区に空き家バンクはありません。登録して買い手や借り手を待つしくみは、用意されていない。
そのかわり、空家等相談会があります。弁護士、司法書士、建築士、不動産の専門家が同じ場に出ます。無料で、予約制です。
開催は毎月第1・第3火曜日の午後。場所は区役所本庁舎7階の住宅課です。窓口は都市計画部 住宅課(03-5273-3567)になります。
この形は、相続がからむ空き家と相性がいい。名義の問題、建物の傷み具合、売り方の見立てを、一度の予約で相談できます。
持っていくものを決めておくと早く進みます。登記事項証明書、固定資産税の通知書、建てた年が分かる書類。この3つがあれば話が具体的になります。
区はほかにも動いています。被相続人居住用家屋等確認書の交付、空家等管理活用支援法人の指定制度、空家等の改善状況の公開です。
このうち被相続人居住用家屋等確認書は、相続した空き家を売るときに要る書類です。譲渡所得から3,000万円を差し引ける特例で使います。
要件は細かく、建物の状態や売る時期にも条件があります。中身は相続した空き家を売る。3,000万円を引ける制度 で確認してください。
新宿区で数が多いのはマンション。間取りは1Kが最多
新宿区の実成約データで、取引がいちばん多いのは中古マンションです。次が戸建てで、いちばん少ないのが土地でした。
分譲マンションの一室は区分所有です。自分の判断で壊すことはできません。ここまで書いた助成も、関係してきません。
残る道は、売るか、貸すか、持ち続けるかの3つです。
築年数の落ち方には段差があります。いちばん大きく落ちるのは、築21〜30年から築31〜45年に移るところでした。
築46年以上の中央値は、築10年以内の半分以下です。相場が上がっている局面でも、建物は毎年その段差へ近づきます。
値動きの材料もあります。直近1年の中古マンションの中央値は、その前の1年に比べてはっきり上がりました。
間取りは1Kがいちばん多く、次が2LDKです。単身向けの部屋が厚い市場になっています。事例が多い層なので、査定の根拠を確かめやすくなります。
改装についても数字が出ています。改装済みのマンションの中央値は、未改装より高く出ています。
ただし、かけた改装費をそのまま価格に乗せられるとは限りません。現況のままの価格と、直した場合の価格。両方を聞いてから決めてください。
成約が多い地区は、多い順に西新宿、新宿、北新宿、西早稲田、下落合でした。売るときの準備は中古マンションを売る。戸建てと違う準備と進め方 にまとめています。
戸建ては築46年を越えても、値がそれほど落ちない
戸建ての落ち方は、マンションと違います。築46年以上の中央値は、築10年以内と比べてもあまり下がっていません。
値を支えているのは建物ではなく土地だと考えると、この形は納得できます。古いから売れないと決めつける前に、数字を見てください。
それでも段差はあります。いちばん大きく落ちるのは、築31〜45年から築46年以上に移るところでした。昭和56年より前に建てられた木造は、すでにこの線を越えています。
用途地域でも差が出ています。戸建ての中央値がいちばん高いのは商業地域で、いちばん低いのは第1種住居地域でした。
取引がいちばん多いのは第1種中高層住居専用地域です。件数が厚い地域と、価格が高い地域は重なっていません。
地区の差も大きい。成約が多いのは、多い順に北新宿、中落合、高田馬場、西落合、新宿です。中央値が高いのは下落合、低いのは上落合でした。
土地の1平方メートルあたりの単価では、富久町が高く、上落合が低く出ています。同じ区内でも水準が違います。
新宿区全体では、戸建ての成約価格の中央値は11,000万円です。成約は667件で、真ん中の半分は7,400万円〜24,000万円に入ります。
土地は1平方メートルあたりの中央値が115万円、成約は214件です。
直近1年の戸建ての中央値も、その前の1年に比べてはっきり上がっています。ただしこれは過ぎた期間の集計です。次の1年を約束する数字ではありません。
売る・貸す・壊す・持ち続ける。新宿区の材料で決める
迷っているなら、この順で確かめてください。
まず名義。 登記事項証明書で、名義と権利関係を確認します。共有になっていれば、売るのも壊すのも全員の合意が要ります。
次に、現況のままの査定。 新宿区は中古マンションと戸建ての取引が厚く、比べられる事例があります。手を入れる前の値段を先に知ってください。
貸す道は、査定と並べて見る。 空き家バンクが無いので、入口は民間の不動産会社です。1Kがいちばん多い市場なら、単身向けの需要は読みやすくなります。売るか貸すかの比べ方は家を売るか貸すか。判断の分かれ目と貸した場合の収支 にまとめました。
壊すのは、いちばん後。 新宿区は土地の取引がいちばん少ない区分です。更地にしたあとの出口は、マンションや戸建てほど厚くありません。
戸建ては築46年以上でも中央値がそれほど落ちていません。建物が古いという理由だけで解体を決めると、残っていた値を自分で消すことになりかねません。
更地に戻すとやり直しがきかず、住宅用地の特例が外れて土地の税負担が変わることもあります。比べ方は更地で売るか、古家付き土地のまま売るか にあります。
持ち続けるなら、費用が出続ける前提で。 管理の手間と固定資産税は毎年かかります。新宿区は空家等の改善状況を公開しています。どこまでが対象になるかは、危機管理課(03-5273-4592)で確かめてください。
この記事の制度の内容は、2026年8月時点の新宿区の公開情報にもとづきます。不燃化建替え促進事業の助成率、上限額、対象地区は確認できませんでした。令和8年度の受付状況と予算枠も分かりません。
動き出す前に、次の窓口で最新の内容を確かめてください。
- 空家等対策の全般: 総務部 危機管理課 危機管理係 03-5273-4592
- 空家等相談会(毎月第1・第3火曜午後・無料・予約制): 都市計画部 住宅課 03-5273-3567
- 耐震改修・不燃化建替えの助成: 防災都市づくり課 03-5273-3829